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・体構造

                    

一見するとWallfishたちは、例えば魚類や頭足類、水草、古に絶滅したとされる首長竜をはじめとする海生爬虫類、はては河童などの伝説上の生き物といった、ありとあらゆる水生生物によく似た見た目をしているように見える。しかし、ここで注意しておかなければならないのは、かれらは主に陸上の「壁面」に、まるでナメクジのように貼りついて生活する極めて扁平的な不可視生物であるという点である。つまり、我々が拓本に記録し、観察しているのはかれらの「背面」(壁に貼りついていない部分)なのである。

これを踏まえて、改めて彼らの体を観察してみると、実際には魚類のそれとは全く異なる体構造を持った生物である、ということが理解していただけるかと思う。

以下の例を参考にしていただきたい。

 

 

これはYamagata giant fishという種のスケッチである。一見サケ科の魚の側面に似た姿をした本種であるが、これが壁面に貼りついた彼の姿をかれらの垂直方向…即ち「上方」から観察した姿である、ということを留意願いたい。つまり、かれらの体構造を図時すると以下の通りとなる。

 

 

・「魚の姿」としてみた場合の「背面」と「腹面」はそれぞれかれらの「右半身」「左半身」、下あごに見えるものは「ヒレ」の一つである。尾びれも魚類のような上下に伸びたものではなく、むしろ海獣のそれに近い横に広いものである。

 

さて、このようにしてかれらの体構造を「魚の姿」という固定観念から離れたうえで見ていくと、固定観念の中ではかれらの「眼球」とみなしていたものが、実際にはかれらの背面に存在する半球体の器官であることが分かる。さらには、その体の先端部に小さな「本来の眼球」が存在することに気付くことができるかと思われる。この「固定観念上の眼球」、および「本来の眼球」についてであるが、現段階ではこれらはそれぞれ用途の異なる「眼球」であろう、というのが通説である。この説では、いわゆる「本来の眼球」を「眼球(平行眼)」、そして「固定観念上の眼球」を「壁目」と呼んでそれぞれ区別する。

「壁目」という器官は、かれらが貼りついている壁の「垂直方向」、いうなれば「我々側」を見るための目であると考えられている。これに対し、「眼球」は壁の「水平方向」を見るための目であると考えられる。

通常、昆虫などの「壁に立つことのある」生物たちは壁の水平方向、及び垂直方向をすべてカバーできるような構造を持った目を有している場合が多い。Wallfishたちが、なぜそうした眼球を持たずにこのような2種類の眼球を持つ体構造をとるに至ったのかは不明である。しかしながら、自然界においてこのような「第3の目」的器官を有する生物というのは決してあり得ない存在ではない。例えば、ムカシトカゲはその額部分に「頭頂眼」と呼ばれる「第3の目」を持っていることで知られている。またミズスマシという水生昆虫に関しては「水中を見るための目」と「水上を見るための目」の2種類、計4つの目を持っているのである。四つの目を持ち広い視野を手に入れた、「ヨツメニギス」という深海魚もこうした例の一つとして挙げられるだろう。そもそも昆虫をはじめとする説足動物自体、二つ以上の眼球を持つものは大勢存在しているのである。

壁目において興味深いのは、ごく一部の人間に限りその視線を「感じ取る」ことができる、という事実である。このことが、可視点からであれば観察が可能なAtmospheric beastsや、一時的に可視的状態になるとされるTsukumoなどのほかの不可視生物と異なり、常に不可視状態を保って生活するWallfishたちの捕獲研究において多大な役割を果たしたことは言うまでもない。捕獲活動などにおいて大いに貢献したこれら「感じ取ることのできる」人々の中には、「時に何者かからの視線を感じるという幻覚症状」を持つとして通院を行っていたものも存在していた。こうしたことからも、しばしば幻覚、妄言、あるいは心霊現象などとして取り扱われる「何者かの視線を感じる」という現象の一部が、かれらWallfishによって引き起こされたものだったのではないか、という意見もあり、今後そうした「症状」を持つ人々、あるいはそうした現象が起こるとされる土地や建物(所謂心霊スポット)に対する調査を行う必要性もあるといえよう。

 

また、このような固定観念を取り去った状態での観察の上で、かれらの体を観察してみると、その多くが非常にいびつな、左右非対称的な体構造を有していることが分かる。これは、特にかれらの「ヒレ」の左右における数、およびその形状において顕著である。常識的に考えればこのような体は行動上合理的なものではないはずであり、なぜかれらがこのような体を持つこととなったのかはいまだ不明である。

 

・分類

Wallfishは、その生態から「移動種」と「固着種」に大きく分けることが可能である。移動種は、(実際にその姿を収めたわけではないが)壁面上を動き回り生活するタイプである。外敵などへの警戒のためか、我々のような監視者がいる中で移動するケースというのはほとんどないようであるが、そうでない場合…すなわちかれらの観察を一切放棄した状態では、平均して日に数m程度は移動することが明らかとなっている。魚類や爬虫類など、概ね「動物」に似た姿を持つWallfishはほぼこの移動種に分類される。

一方固着種については放棄状態についても移動することはほとんどないとされている。但し、例えば本来その種がよく生息するタイプの壁面から、そうでない壁面に移して放棄した場合には微弱ながら移動の形跡がみられることはある。またいくつかの種において、自身の位置を移動することはなくとも、例えば体をくねらせたり、触手状の器官を動かす、といったようなことは普通に見られる。こちらの外見については水草や海藻に似たものから、サンゴや海綿に似たもの、岩や泡の塊に見えるものなどさまざまである。

 

それぞれの種においては、外見などから以下の通りに分類されている。

 

移動種

 移動種に関してはその外見は多彩であり、固着種とは異なり体構造上はっきりとした区別ができない状態にある。このため、現時点ではそれぞれの種の持つ特徴などをもとに一応の分類を行うにとどまっている。

 Long neck類

  壁目又は眼球(或いはその両方)を備えた、長い首状の器官を有する。

 Fish類

  魚類の側面に似た姿を持つ種。多くが背びれを持つ。体節によって明確に「頭部」   

  が作られる点が最大の特徴である。

 Serpent類

  細長い体が特徴。鰭はその数が少ないものと、多ビレを有するものに二分される。  

  平行眼は総じて触角型である。

 Thing類

  触覚型の壁目を持ちつつも、その分類付けが困難な種はここにまとめられている。

  壁目の位置や配置が独特であり、明確な「頭部」の特定が困難であることが多い。

 Chimney eye類

  平行眼を有した煙突型の鰭を体の中心に持つ。両端の鰭は細長い形状をしたものが

  多い。     

 Monster類

  密着型の眼球を持ち、かつほかの分類に属さないものを指す。多くの場合において

  まとまった頭部を有し、また片側に多ビレを有する。       

 

 

固着種

 Rod類

  棒状の体に左右対称的に配置されたヒレを有する。眼球を有する場合がある

 Tentacle類

  基部より数本の触覚が伸びる。眼球などは有さない

 Globster類

  極めて流動的。肉塊状の体を持つ。眼球は見られない

 

移動種の分類は全く「一応の」ものである。現在の分類はかれらの持つ見た目上の特徴に準じたものであるが、それよりもかれらの眼球において明確に二分される、「密着型」「触角型」の特徴に基づいて分類を行うべきである、という意見も存在するが、一方で双方にまたがって存在するような身体的特徴が存在していることもまた事実である。このため、後の研究、あるいは有識者からの見解などによってはこれらの分類が大きく変化することは十分にあり得る。さらなる種の発見、およびかれらに関する新たな発見とそれに基づく研究が待たれるところである。因みに、こうした分類の曖昧さから、各個体の名称においてはこれらの分類に基づかないもの…例えば見かけ上の水生生物に準じたような名称…が数多く存在する。

 

 

 

・生息域

先述した通りかれらの住処は様々な「壁」である。種によって好む壁の種類、及び壁面上の「位置」というものは悉く異なっている。これは「壁面」という限られた場において、かれらがめいめいに考えうるだけの「ニッチ」を埋めていった結果によるものと考えられる。ひいては、現在調査中であるかれらの「餌」となる存在の生息域とも、当然ながら何らかの関連性を持つことが想像されるのである。

かれらの壁の選び方に関しては注目すべき点がいくつか存在する。その一つとしては、「植物の生い茂る場所の壁面を選ぶ」という、まるで自身が不可視でありながらも「見られることを意識したかのような」擬態行動をとる種が存在している、という点である。通常、Wallfishという不可視生物は「質感擬態」と呼ばれる行動をとることでよく知られている。これは不可視ながらも「触れることができる」というかれらの特徴から誕生したと考えられるものであり、本来的にはこの能力を有していればほぼ問題なく擬態行動を遂行することが可能なはずである。にもかかわらず、一部の種においてこうした「視覚的擬態」を行うことは非常に興味深い。かれらの天敵となる生物は、その不可視性を打破することのできる能力を有しているのだろうか?それとも―これは幾分有力的な仮説だが―Wallfishたちは互いの不可視性を無視してその姿かたちを見ることができ、さらにはWallfish間において食・被食の関係性が成立しているのだろうか?擬態行動に留まらず、例えば「白い壁だけに住む」「人通りの多いところに住む」といったような、一見その意図が分からないようなかれらの「好み」についても、同様の理由からくるものであることが予測される。

右半身

左半身

​右びれ

​左びれ

​背びれ

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