top of page

・体構造、及び分類

 

 Footprintsという不可視生物は、その名が示す通り様々な動物の「足跡」に非常によく似た外見を持つ存在である。浅く地面を掘って窪みを作り、その中で地面に貼りつき生活する、というその生態もまた足跡を想起させるものである。これは、本種の多くが楕円形の基部とその上方から派生する複数の小型機関からなることに起因する。これがそれぞれ、足とその指とに見えるという訳である。

 かれらは、基部およびそこから地続きに派生する「指」によって構成される種(一体型)と、分断された複数のパーツによって構成される種(分断型)のふたつに大別できる。分断型に関してはそれぞれのパーツが別個の種であるという可能性も大いにありうる。しかし、それぞれがみな一様に決まった感覚で配置につき、常にともに行動することを考えると、個体としては別であっても同一種である可能性も高いように思われる。つまり、アリのカースト、あるいはクダクラゲなどの群体生物のように何らかの役割分担がなされた個体たちの集合体である、ということである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・一体型、及び分断型の模式図。分断型に限り上部、中部、下部といったパーツ別の呼称が存在する。

 

 体構造については、両社共通としてまるで細胞の核のような構造体が複数存在する点があげられる。これについては見た目通り細胞核のようなもの、あるいは内臓などであるとする説が存在するが、それとは別に地面に貼りつくための「吸盤」の役割を果たす器官であるとする説も存在している。一体型の多くは体の輪郭線上に縁のようなものがみられるが、これも同様の機能を果たすと考えられている。

 同じく共通する構造として、かれらの体は本来、比較的硬質な「上皮」に覆われている。上皮はかれらの背面、つまりは地面と接していない方に存在しており、外敵や外部からの衝撃に耐えるための器官であると考えられる。加えて、この上皮は高度な「質感擬態」の能力を有している。かれらはこれによって自分の接している、又は自分の周囲に存在する地面の質感や凹凸をそっくりまねることによって、あたかも自身が何者かの足跡そのものであるかのように見せかけることを可能とするのである。足跡の記録方法としては石膏取りがメジャーであるが、この能力によって、例えかれらのいる地面の窪みを石膏で記録したとしても、その姿を捉えることは不可能なのである。(この場合、Footprintsの体は石膏にくっついたまま地面を離れる。脆弱な体を持つかれらはその腹面を外気にさらすことで瞬く間に死滅、消失してしまうのである。)ただし、硬質とは言えかれらの体はその上皮を含め十分脆弱なものであり、踏みつけられたり風雨にさらされるだけであっけなく死滅しうる存在である。

 

 また、かれらの特徴として挙げられるのは、かれらの多くが2体以上の「ペア」あるいは「グループ」を有するという点である。特に「ペア」の場合、まるで右足と左足のように左右対称の個体によってペアが構成される。これらは俗に「右体」「左体」などと呼ばれる。種によっては前後をはじめとする別な並びによるペアが構成されることもあり、この場合「前体」「後体」などと適宜呼称される。これらのペアやグループがどういった意味を持つのかはいまだ不明である。現在有力視されるのは雄雌などの性差による違いであるが、これについても何ら確証があるわけではない。これらの異なる形の個体は後述する群体形成においてはほとんど同数、或いは決まった比率にて出現し、また決まった配置―その多くは列状である―によって群体を形成する。

 これまでに述べた、「足跡に似た外見」に加え、「浅い窪みの中に住む」、「左右対称の個体の存在」、そして「群体形成」といったかれらの持つ特徴によって、かれらの存在は「何かしらの動物の足跡」そのものとしか思えない様相を示す。仮に我々がかれらを見ることができたとすれば、かれらの住む窪みの中から、上皮越しに透けて見える彼らの構造体などを見ることができるのかもしれない。しかし、かれらが不可視である以上、我々には、一定の配置で列をなすように並んだ足跡状の窪みしか確認することはできないのである。

 かれらの持つ、こうした執拗なまでの足跡への擬態に関しては、そのまま「何かしらの動物の足跡に紛れる」ことを目的としたものであると考えられる。仮に我々、ないしほかの動物がかれらを発見したとしても、足跡という「痕跡」と捉えはしても、まさかそれが「生物」であると気づくことはあるまい。「痕跡に擬態する」という意味では、例えば鳥の糞に擬態する昆虫などの既知の生物たちに見られるものと同じようなものであるということもできる。

 このことから、多くのFootprintsたちは、その目的のために自身の体を極力既知の生物の足跡に似せたものにするよう進化してきたと考えられる。事実、多くの種が我々の知る生物の痕跡に驚くほどよく似た外見を示すことが確認されている。しかし、一方でケースによっては、本来その外見に酷似した足跡の持ち主となる生物が存在しない地域にもそうした種がみられることがごく少数ながら報告されているのである。これに関しては、おそらく本来の生息地から何らかの理由で運ばれてきた個体であろうことが予測される。このようなケースの事例が、後述する未確認動物譚と大いに関係してくるのである。

bottom of page