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今回発見したこれらの生物は、肉眼による(錯覚による拡大状態にある)生体の視認、消失するまでの瞬間的な接触などの主観的方法を除けば、基本的に「拓本を取る」という行動によってしか行うことはできず、その真の姿を客観的に確認することは難しい。それゆえ、その分類や生態についても拓本にとられた姿及び観測者の証言を参考におおよその予想を立てることしか現時点ではできず、非常に曖昧な、かつ主観的なものとなってしまっている。以下の概説、および各個体の解説等についても、そういった前提の下行われたものであると言うことを先にここで提示しておく。

 

・形態

 サンプルの形態については、観測者による拓本の確認などから、その厚みなどの細かな差異を除けばほぼ生体と同様であるという結論に至っている為ある程度信頼の置けるものと言ってよいだろう。その構造や形については種によって非常に多様ではあるが、共通点として「上部」と「下部」、されにそれぞれの特徴として「軟質」と「硬質」にその構造を大きく分類することができる、と言う点が挙げられる。上部はその多くが下部よりも大きく、クラゲ或いはキノコ類の「かさ」に酷似した構造をしている。上部はその形状、位置から、風船のように気流に乗って浮遊する為の気嚢と消化器官の役割を担っていると考えられている。一方下部はその殆どが触手状、或いは口などのような形状をしており、捕食器官であるという説が有力である。これらを踏まえると、かれらは蛸などの頭足類、あるいはクラゲなどの刺胞動物に似通った身体構造をしているように思われるが、これについても外見以上の確たる証拠があって言われているという訳ではなく、「単に姿かたちの似た既知の生物に当てはめて満足しているに過ぎないのではないか」、「かれらが何もかも常識はずれの存在である以上、こちらも自分たちの持つ常識を一切捨てた上で研究に臨む必要があるのではないか」といった批判も存在しており、その確定については今後も研究が必要であると言える。

 上部、下部はそれぞれ軟質あるいは硬質にその特徴を分類することができる。一般に、「乾きかけの糊」と形容されるような僅かな粘性と弾力を持つタイプのものを「軟質」、プラスチックや甲殻のような丈夫な質感のものを「硬質」と呼称しており、これは接触に成功した観測者、および拓本取りを行った者の証言を基にしている。どちらの形質についても死骸の状態ではその粘性が高まるらしく様々な物体に貼り付きやすい。仮にこの状態のかれらに触れたり、踏みつけたりしたとしてもビニール袋のゴミ程度にしかその違和感を感じることはないであろう。そのようなものがごく短時間壁や床に貼り付いていたところでかれらの存在に気づくものは誰もいまい。この事がかれらの発見を遅らせる要因のひとつになっていたことはいうまでもないであろう。

 ちなみにこの軟質硬質分類であるが、例えば軟質の上部に硬質器官が全く含まれない、といったようにはっきりと二分できるものではなく、分類についてもどちらの形質が大部分を占めているか、といったことを示すものに過ぎない。この、部分的に別形式が存在する、という特徴は硬質器官に生ずることが多く、さらにそれらについては硬質器官の内部に軟質器官が存在するような状態である場合が多い。このことから、硬質器官は軟質器官を保護する、いわゆる「殻」に近いものとして後付的に発達したものではないか、とする説が存在する(この「殻」説については後述する。)。

 また、種によっては「風船」と呼ばれる上部器官、「ヒレ」と呼ばれる上部器官、「根」と呼ばれる下部器官が存在する場合がある。このうち、「ヒレ」以外の器官を持つのは「風船型」「有根型」と呼ばれる特殊な種のみである。また、通常より大型の「ヒレ」を持つ種についても「大鰭型」として区別される。詳しくは後述するが、この3種については他の種にはない特殊な性質を持つ場合が多い。

 以上の身体的特徴を踏まえ、上下部それぞれが、軟質か硬質であるか、及び上記の特殊器官を有しているかを基準として「上軟下軟」「上硬下軟」「上軟下硬」「上硬下硬」の4種に分類を行うのが現時点でのAtmospheric beastsの分類方法である。特殊器官を持つ種についてはそれぞれの分類の下に「風船型」「大鰭型」「有根型」が付随する。体構造や生態、系統図と言った、生物分類に必要な要素が悉く不明なかれらであるが、この分類方法によって一応の分類を行い、今後の発見に可能な限りスムーズに対応することを目指し行われている。

 かれらの大きさについても掌に乗るサイズから2m以上に至るものまで、形態同様種毎に大きく異なっている。平均としては10数cmとされており最も発見例が多い。しかしこのサイズについても上部、下部それぞれのサイズで見るとまちまちである。また一般的に小さいサイズであるほど観測時のサイズ比率が大きいといわれており、この点が錯覚行動の起源を威嚇とする根拠にもなっている。また厚みについては、種に関わらず死後急速に1cm程度にまで平坦化が行われ、その後徐々に厚みをなくしていくことで消失するとされている。

 ところで、拓本をとられたかれらの大きさが常にほぼ種毎に一定のサイズである、という奇妙な性質については未だ議論が耐えない。かれらは幼体から成体に至る成長の過程で大きさが変化しないのであろうか?その説明として、後述する植物起源論者の中には、かれらを未知の植物の種子であるという仮説を主張しているものもいる。中にはコンスタブル氏のプラズマ生命体の影響から、現在目撃されているかれらを「可視期間」とも言うべき未熟な状態と成熟した状態との中間にある個体であるとして、そのほかの期間の個体は、目視はおろか触れること、即ち拓本にとることすら不可能な状態にあるのだ、と主張するものもいる。

 最後に観測された際の体色についてであるが、観測者の証言によれば生体、死体に関わらずビニールやガラスのような無色透明、あるいは半透明であるというのが一般的である。

半透明であった場合、薄い白、グレーなどの目立たない色であることが殆どであるが、種によっては(同様に薄いものの)赤などの比較的鮮やかな体色をもつものや、金属光沢のような質感をもつものも存在している。研究者の中にはかれらの色について、かれらのもつ透明化の能力と関連し「視認されたときの体色は、かれらが視認されてもなお少しでもその存在を隠そうとした努力の結果、言うなれば不完全な透明化、あるいは半透明化、地味化であり、仮に完全に透明化を解いた場合の体色はまた異なったものなのではないか」と主張するものも存在する。一方で、その意見に対し、少しでも目立たぬよう努力した結果であると言う点については賛同しつつも、その体色についてはやはり本来の色であり、透明化の能力行使の努力というよりはむしろ、自身の体色自体を地味なものにするという努力であったのだ、という反論を行うものも多い。無論どちらの意見についても憶測の域を出ないものであることは言うまでもなく、その証明をする手立ては現在何も存在していない。しかしながら、やや透明度の少ない種、あるいは鮮やかな色を持つ種については、自信を透明化する技術が未発達な、ある種原始的な存在である、というのは両論に共通する主張である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・身体構造図説。かれらの分類方法は東京都在住の飛行物体研究家である矢藤潤二氏によって提唱されたものである。現時点ではこの分類から外れた種については報告されていないが、かれらが謎多き存在である以上、ふとした発見でこの分類が大きく変わることも充分にありうる。

・生息域

前述の通り、かれらは空中を主な生息域とした生物であると考えられている。その具体的な生息高度については未だ不明であるが、目撃談や現に我々が観測に成功していることなどから、少なくとも現在確認されている種については殆どが肉眼で視認できる高度以内に姿を現わしていることは確実と言ってよいであろう。逆に言えば、通常飛行機などでしか観測できないような高高度、或いは更に上空に未知の新種が生息していると言う可能性も存在しているのである。

環境については種毎に様々である。森林や水辺の上といった自然環境だけでなく、市街地など我々の住む環境内で生息する種も存在している。この点については鳥類や昆虫などの他の空を飛ぶ生物と同様である。しかしながら、その体を構成する物質が熱環境に弱い為か、例えば赤道直下の大地や砂漠地帯などのような、極端に気温の高い地域ではあまり観測されていない。これは軟質構造を主体とする種に特に顕著である。反対に、鳥類や昆虫類が生息できないような寒冷地帯においてもかれらが目撃されたという情報も存在する。しかしながら最も観測・捕獲件数が多いのはやはり森林・水辺と言った湿気に富んだ環境である。後述する菌類説・植物説・水生生物説いずれの説についてもこの点を根拠に挙げられている。

活動する時間帯についても生息環境同様に様々であるが、夕暮れから日の出にかけてが最も目撃件数の多い時間帯であるとされている。年間を通してでは他の生物同様、一定の期間にのみ活動するタイプと年中観測されるタイプとに分かれる。観測されにくい時間帯におけるかれらの行動については謎が多く、かれらが森林や水辺のどこか、あるいは雲の中などの上空に巣を持つタイプの生物であり、活動時間外は戻って休んでいる、といった説も存在する。しかし後述するかれらの食性を考えるに、餌となる小生物が活発に活動する時間帯に合わせ、我々が目撃しやすい高度まで降りてきている、という可能性のほうが高いように思われる。

しかし、巣を持つという意見はともかく、仮にかれらが捕食の時間を除いてはるか上空で生活していた場合、かれらの大きさに関する記述で述べた、同一サイズしか観察されないという問題を説明できる可能性もある。即ち、かれらは上空で交尾・産卵(かれらが卵生であるとすれば、の話だが)を行い、その後誕生した幼体は自分で餌を捕れるようになるまで上空で過ごす、という可能性も存在するのである(かれらがあまりにも非生物的、あるいは下等生物的見た目をしているので忘れがちだが、かれらの知能については未だ不明なのである。つまり、かれらが鳥類や哺乳類などのように「子育て」をしている可能性も当然存在しているのである)。この場合、かれらの巣は上空全体、ということになるのかもしれない。しかしながらこの仮説を立証するには数多くの航空機を使用した、非常に大規模な実験を繰り返し行わなければならないことであろう。

 

・食性

 かれらの食性についてはその殆どが依然として不明である。しかし、捕獲したサンプルのうち、Ghost、Witchについては微小な昆虫が体内または下部に存在することが確認されており、昆虫食である可能性が高いと思われる。当然であるが、数種の食性が特定されたからといって他の種についても同様である、というのは暴論であり、種によって様々なタイプの食性が存在することは間違いない。さらにいえば、この発見された昆虫についても共生説が挙げられており、未だ研究者全体に昆虫食説が受け入れられたわけではないのである。他の可能性としてあげられるものとしては、植物の細かな葉や木の実、藻などを食べるとする説、光合成+大気中の水分で生きると言う説(植物説に多く見られる)、カゲロウなどの一部の昆虫のように成体である現在の状態ではものを食べないとする説(この場合、見つかった体内の昆虫は幼体に与えるために捕獲したものである、という説明がなされる)、電力などの何らかのエネルギーを摂取しているという説などが存在する。何れの説についても、いままでかれらが発見されなかったという事実から、人の目に触れづらい微小なものを栄養源にしている、という主張は強調しているように思われる(しかしながら、これは摂取された物体が透明化の状態にあっても、かれらの体内に存在することをガラス瓶のように確認できる、という仮定を前提にしたものである。かりにかれらの透明化が、体内に存在する食物をも透明化できるものだとしたら、その食物が我々の予想より大きいものである可能性もあるだろう。とはいえ、急に消失して大々的に報道されるほどの大きさの物体を常時食べているとはかれらのサイズからも考えにくい。もしそのようなことが起こっているとすれば、巷で言う「アブダクション(UFOによる家畜等の誘拐事件)」との関連性も疑われるが。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・「Ghost」の上部内より見つかった微小な羽虫。サンプル消失後、台紙にはこの羽虫のみが残された。発見時点で既に死亡しており、体が欠損した個体も見られたものの、残念ながら消化途中のものは見つからなかった。空中に生息し昆虫や蜘蛛類を食べる存在については、リチャード・フォーティー氏が著書「生命40億年全史」においてこれまで占められたことのない「ニッチ」としてあげている。

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